手を引き寄せられた。
「煩わしいって、なんだそれ」
「だって朝バタバタしてるときに、私出来ることないし」
「泊まりじゃないから、朝早くない」
あ、そうなの? と顔を見上げる。
安藤はこちらも、正面も向いていなかった。
駅の方。疎らな人通り。平日の夜は、みんな家へ直帰している。
一人だけ、女性がこちらを見ていた。こちらを、ではなく安藤をだ。
私はそれが誰か、すぐに分かった。
安藤の唯一長く付き合った相手。
「高梨さん……」
呟く声が、私にも聞こえる。反射的に腕を離して、言ってしまった。
「私、先行くね」