それから店員の人がタオルを持ってきてくれた。お礼を言って、私はそれで顔を拭った。

「簡単に引き下がるのね」

「あなたが現れるのを待ってたので」

「……え?」

「先に出ます。三島さんには言っておいてください」

タオルを置いて、立ち上がる。あー薄い色の服にしなきゃ良かった。しかもワイン臭い。

隠れ家っぽくてこの店好きだったのにな。もう来れなくなってしまった。

店を出る直前に、名前を呼び止められる。
三島さんは、不安げな顔をしていた。

私はもしかしたら、そんな顔を見たかったのかもしれない。いつも情緒が安定していて、にこにこしている彼の、そんな顔が。