誰か分からないけれど、月白という苗字がそこらに溢れているわけではない。
勿論母がそちらに向かって歩いていく。私はあのおばさんに売られてしまうのかも。
まだラスクを食べていないというのに……!
「お母さん、ちょっと!」
「大丈夫、とても格好良い人だったから」
背中を押されてぐいぐいと前に進まされる。
襖が開けられて中に入る。最悪だ、良いお菓子と高いご飯と素敵なワンピースにつられてこんなところに来てしまうなんて!
中には既に人がいた。断ると決まっているのに顔を合わせるなんて気まずいな、と思ってそちらを見る。
「え……」



