正木尊

この界隈で彼を知らないやつは少ないだろう
ただ、顔を知らないやつは少なくはないと聞いた



「た、尊さん?」



彼女の驚く姿に正木尊は彼女の髪を優しく撫でた
それでも、俺を睨むのは忘れない



「どうして?」

「近くを通ったら麗がいたから」



優しく彼女を見つめる姿はさっき俺を睨んでいた男とは思えない
なるほど、惚れてるのは正木尊だ


彼女はどれ程の男を魅了するのだろう


確かに美人だ
それなのに気さくで話しやすい
合コンでも彼女の姿に見惚れたのは俺だけではない

自分の決して少なくない女性遍歴の中でもずば抜けていい女だろう



「この男は?」

「あ、」「食事に行く程度には親しいかな?」



彼女の言葉を遮ったのは自分
わざと、煽ってみた
一気に空気が変わる



「二度と誘うな」

「彼氏はいないみたいですが?」

「俺の彼女だ」


それは、色恋の彼氏と彼女と言う意味なのだろうか?
先程の微妙な彼女の表情はどういう意味を持つのだろうか?



「た、尊さん……」



彼女がスーツの裾を引っ張れば、また、彼女の方を向いて甘い顔をする
これで本当に付き合っていないのか?



「川口さん、俺はあなたが好きです」

「あ、ごめんなさい」



今日、二度目の告白と謝罪
何故だかもう一度言いたくなった
答えはわかっているのに

目の前のいい男と張り合いたかったのだろうか
正木尊が彼女を見る目は正真正銘愛を語っていた
そして、彼女だって