「結弦、あのね?」


改めて呼ぶ、彼の名前。
きっと、最後にする、彼との会話。
ぐっとお腹に力を入れた。


「私ね、好きなの。結弦のことが。」

『えっ。』


目を見開いて、あ、と口を開けたままの彼を横目で見て、そのまま続ける。


「私、何十年も片想いしてた。あなたに。
私は失恋したんだから、私の分まで幸せになりなさいよ!」



そうして、彼に背を向ける。
涙は出なかった。


『俺も、好きだったよ。
もっと早く伝えれば……』


だめだよ、結弦。
そんなこと言ったら、今さっき彼女にした藤井さんはどうなるの?


私は、私は、大丈夫だから。
心配しないでね、結弦。