部屋から出て、同じホテルの十九階にあるフレンチレストランへ。

「ごめん、サプライズ感が足りなくて」

レヴィは苦笑してそう言うけど、いやいやこれは立派なサプライズです。

「ううん、私こういうところ初めてだから嬉しい」

本当は元彼と背伸びしてこういうレストランやもっと上階にあるラウンジに行ったこともあるけど、そんなのは忘れたことにしよう。

まるで映画で見た豪華客船の中みたいな、曲線を多用した店内のデザイン。フロアの中央には大きなグランドピアノ。

当たり前のように、窓際の夜景がよく見える席に案内される。

「静かで素敵」

ファミレスや飲み屋みたいに、うるさい家族連れもおばさんグループも大学生のサークル仲間もいない。他のお客さんもカップルや夫婦らしき二人組が多かった。

円形のテーブルの上に、キャンドルが置かれている。エスコートされてレヴィより先に座りながら、ゆらゆら揺れる炎を見てゆったりした気分になってきた。

「失礼いたします」

ウェイターがシャンパーニュを運んでくる。どうやらコース料理を予約しておいてくれたらしい。

グラスに注がれる煌めく琥珀色の液体。肺を汚染していた職場の気まずい空気も洗い流してくれそう。