よ、良くないって言われたって。そんな真剣な顔で怒られても。

「わ、わかった。大丈夫じゃない。でも、その話はここではしたくない」

自分の頬を包んだままのレヴィの手をぺちぺちと叩く。早く解放して。ほら、帰り始めた社員たちがこっちを見てるじゃない。

レヴィがうなずいて手を放した。そのとき、背後から声をかけられた。

「莉子? 何やってるの」

どきりと心臓が跳ね上がった。幽霊の声を聞いた人みたく、ゆっくりと後ろを振り返ると……いた。由香だ。

「まさかそのひと、噂の新しい婚約者?」

昼間と全く変わらないテンションで話しかけられる。それが逆に怖い。

「あれー、中岡先輩!」

「そちらの素敵な方、どなたですかあ?」

トイレで嬉々として私の悪口を吐いていた後輩たちまで駆け寄ってくる。

あんたたち、どの面提げて……。

キッとにらんでやりたかったけど、レヴィの前では性悪女になりたくない。彼女たちもそれを感じるから平気で近寄ってくるんだろう。イケメンに嫌われたい女はそうそういないもの。

「ごきげんよう。莉子がいつもお世話になっております。婚約者の浅丘と申します」

「ご、ごきげんよう……」