職場で知り合った若手ナンバーワンの実績を持つ彼は容姿も家柄も良く、性格も明るい。年内には結婚式の招待状を出すからと言えば、女性社員皆が羨ましそうにため息をついた。

この一時の別れだって、私の華やかな人生のスタートラインに過ぎない。ここから誰もが羨むくらい幸せになるのよ。

「うん……いや、あのさ、莉子」

「なに?」

奥歯に物が挟まったように、話しにくそうに口をもごもごさせている彼。もしかして、プレゼントを渡そうとしている?

そう、今日は私の二十六歳の誕生日だもの。今まで何もなかったからおかしいと思っていたけど、この一時の別れの瞬間をドラマチックに演出しようとしていたのね。

できる限り可愛らしく首を傾げた私に、彼は眉を下げたまま告げた。その手には荷物以外何も持っていない。

「やっぱり、この結婚はナシにしてくれないか」

「……え?」

この結婚は梨? 結婚を果実にするってどういうこと?

「しばらく、仕事に集中したいんだ」

「ええと……もちろん、あなたの邪魔をする気はないわ。籍を入れるのだって、あっちでの生活とあなたの仕事が落ち着いてからで構わないし……」

「そうじゃなくて」

私の言葉を遮る彼に、言葉を失う。眉をひそめて、ため息をついて。どうしてそんな、舌打ち寸前のような顔をするの?