「大丈夫か?」

「ええ、レヴィ様のお手を煩わせるほどの問題ではありません」

くるりと踵を返す。玄関に向かおうとする私の手を、誰かがつかんだ。

振り返ると、般若の顔をした莉子さんが。

「あんた、謝りたくないからって自作自演してるんじゃないでしょうね?」

あまりに鬼気迫る形相で言うものだから、さすがの私も背中が震えた。

「まさか!」

ぱっと鬼婆……じゃなかった、莉子さんの手を振り払う。

「ではレヴィ様、失礼いたします!」

「あ、こら、ちょっと待てー!」

包丁を持って追いかけてきそうな迫力の莉子さんから逃れ、必死で玄関の外に出た。

「ふう……」

ハンカチで額の汗をぬぐう。

いったいレヴィ様はあの女のどこを気にいったのか……。

男女の愛情というものを理解するには、私はまだまだ修行が足りないのかもしれん。

とにかく、認めていない相手に対して頭を下げなければならないという屈辱は回避した!

あの女はもうすぐ専業主婦になる。仕事で一緒にいる分、私の方がレヴィ様との時間は多い。

まだ戦いは始まったばかりだ。

見ていろ。お前より信頼される秘書になってやるからな。

私はネクタイを直し、会社へと歩き出したのだった。

【end】