とある空港。ビジネスマンや旅行者の行きかう国際線出発ロビーで、今から海外出張へ向かう婚約者と向き合う。

天気は晴れ。建物の外では、まるで彼の栄転を祝福するような青空が広がっている。

「じゃあ……気を付けてね」

飛行機の発着を知らせるモニターに、彼が乗る便の番号が表示される。もう搭乗口に向かう時間だ。

私はネイビーのスーツを着た彼のネクタイを直す。ほとんど乱れてはいないのだけど、名残惜しさを演出するためにそうした。

彼も寂しがっているのか、申し訳なさそうな顔で私を見下ろしている。髭の剃り跡も目立たないし、短い髪はきちんとセットされている。そんな彼の姿は私を満足させた。

誰が見ても、理想のカップルに違いない私たち。空港で別れを惜しむシチュエーションも絵になっていることだろう。

「マンションの片づけが済んだら、すぐに追いかけていくから。それまで寂しいけど、我慢する」

一足先に彼が出発する。半月後、私も彼を追いかけてニューヨークへ行く予定。彼が勤める会社の本社があるその街で、私たちの新しい生活がスタートする。

落ち着いたら籍を入れる予定でいる。だから今月末で仕事を辞められるように退職届も提出したし、マンションも解約手続き済。あとは既に決まっている次の住人に引き渡すだけ。