「顔を上げて。もう演技はしなくていい」

レヴィに肩をポンと叩かれ、真由さんはゆっくりと顔を覆っていた手を外す。

「CEO、演技だなんて……彼女だって被害者……」

「もういいですよ」

男性秘書が言い終わる前に、真由さんの声がそれを遮った。

けだるそうに顔を上げた彼女の頬には、とっくに乾いた涙のあとが。

「さすがに、これだけのことをやって、同情を買って乗り切ろうっていうのは無理がありますよね」

いつもよりワントーン低くなった声。自分を嘲笑うように上がった唇。

「面白かった。みんな、莉子さんのことはバカみたいに責め立てるのに、私にはすっごく同情してくれて。でも、CEOは騙せなかったかー」

真由さんの豹変ぶりに、みんなが異世界に紛れ込んだ人のような顔をしている。

私だって信じられない。今までの真由さんが、ずっと演技をしていたなんて。

誰だって、よそ行きの顔はある。けど、この人はそういうレベルじゃない。

「多部氏も、きみのそういうところを感じていたんじゃないかな」

レヴィがそう言うと、真由さんはフンと鼻を鳴らした。

「推測はけっこうです。さ、私をどうするんですか。警察に突き出しますか」

「そうだね。不起訴になっても、民事で争うさ」

「好きにしてください」