「あなたはどうして、多部氏に情報を渡してしまったんですか?」
浅丘グループからそういう特殊な事情で解雇されたとあれば、次の就職先を見つけるのは困難だ。
巨大グループゆえ、名のある企業はほとんど、浅丘グループと何かしらの関係がある。
浅丘グループを追い出されてしまったら、レヴィが言っていたように、田舎で農家でもやるしかない。浅丘グループはそちらには手を出していないから、妨害もされない。
それはさておき。しんと静まり返る秘書室の沈黙を破ったのは、真由さんではなかった。
「あのう、何かの間違いじゃありませんか。だって、遠藤さんですよ?」
「そうですよ。真由ちゃんがそんなことするなんて、信じられません。CEO、中岡さんを庇うために真由ちゃんを利用しているなんてこと、ないですよね?」
男性秘書とアラサーの百田さんが交互に声を上げた。
私のときは疑いもせず、非難したくせに。真由さんだけ庇うとか、何なの。わからなくはないけどムカつく。
「真実は、遠藤さん自身が知っているはずです」
レヴィ自らが声を発した。彼が一歩ずつゆっくりと進むのを、私たちは固唾を飲んで見守った。
座ったままの真由さんの真横に立ち、ヘイゼルの目で彼女をじっと見つめる。
その目は怒りを宿してはおらず、ただ真実を映そうとする水鏡のように澄んでいた。



