周りが慌ただしく動き出す。私は呆然として立ちつくした。
「いつまでそこにいるの。今あなたにできるのは、私たちの邪魔をしないことだけ。早く出ていきなさい」
百田さんの厳しい声が飛んでくる。
たしかに、何もしないで突っ立っている私はこの部屋の邪魔でしかない。
ううん。こうなる以前から、私は邪魔者だった。
バッグをつかみ、秘書室の扉を開ける。
「莉子さん!」
真由さんの声が背中から聞こえた。けれど、振り向いて挨拶をする気力は残っていなかった。
私が残っても、周りの空気をぴりぴりさせるだけだ。
自分に着せられた罪を認めるみたいで悔しいけど、仕方ない。
それに、私だって、もうあんなところにいたくない。
「……なんなのよっ」
エレベーターに乗り込んだ途端、視界がぼやけ、堪えていた涙が溢れだす。
頑張ってきたのに。他のどこで嫌われたって構わない。
でも、レヴィの妻として、ここでは嫌われてはいけない。
そう思って、秘書の仕事をしてきたのに……。
結局、こういう事態になったときにわかる。私は誰にも信頼されていないのだと。



