××夫婦、溺愛のなれそめ


神藤さんはキッと私をにらむと、足早に去っていく。

あとに残された私たちの間に、重い沈黙が落ちた。

「……信じて。本当に、私じゃない」

カラカラの喉からかろうじて出てきたのは、そんな一言だった。

「わかってる。情報が入ったファイルは厳重にロックされていた。閲覧するにはごく一部の人間しか知らないパスワードが必要。解除するのは君じゃ無理だ」

そういう理由? 私の人間性を信じてくれているわけじゃないの?

たしかに私は性格が悪いよ。楽して利益を得られるなら、地道に働くより断然その方がいいと思っている。

でも、絶対。私は、レヴィを裏切るようなことだけはしないのに……。

唇を噛んでうつむく。信じてもらうには、どうすればいいの。

「相手の会社へ訪問しよう。アポを取って」

秘書としての私に言っているのだろう。レヴィの声は、いつもより冷たく感じた。

「……わかりました」

「電話しづらいなら、他の人に頼んでくれてもいいから」

そんな彼の一言に、思わずカッとした。

「バカにしないで!」

私は何も悪いことはしていない。誰にも好かれずに退職していても、レヴィの秘書として電話することぐらいできる。