私はテーブルの上に置いている果物ナイフを手に取った。



「それで俺を刺すか?」



ジーン王子は馬鹿にする様な顔をした。けどその顔は直ぐに驚いた顔になった。



「これを教会にいるヘンリーに渡して欲しい。 私は死んだと伝えて」



ナイフで切り取った髪の毛を差し出した。するとアゼルは突然大きな声で笑い始めた。静かだった部屋中に笑い声が響いてる。



「綺麗な髪の毛だったのにもったいないことをして。 後で整えてあげるよ」



髪の毛に触れるアゼルの手をそっと振り払った。


冷酷極まりないジーン王子を恐ろしいと思う。けど、この人の腹の底が読めない感じの方が恐ろしく思えた。崩れない笑顔も胡散臭い。



「結構よ。 自分でできるわ」

「そう? では髪の毛は僕がヘンリーに届けよう。 ヘンリーとは知った仲だから、その方が彼も信じてくれると思うしね」

「…………」



私がジーン王子に囚われたと知れば、ヘンリーはきっと私を追ってくるだろう。そんな事はさせたくない。だから死んだ事にした方がいい。私だってヘンリーの事を大切に想ってる。


ヘンリーごめんなさい。


パパ、ママ……どうかヘンリーを……教会のみんなを守って下さい。私は大丈夫。