エデ伯母さまはニーッと口角を上げた。正気を失っているような目。


みんなが一歩後ずさる中、クリストフは一歩もその場を動かない。



「その子がプワゾンの抗体を持っているようにわたくしの中にはコンソラトゥールの抗体があるわ!! ましてやこんな少量の血でわたくしが殺せるとでも思っているの!?」

「思ってないよ」



クリストフはそう言って、首を傾げ微笑んだ。そして腰にさしていた剣を引き抜いた。新品のように汚れも傷もない剣。その剣を握る手に力が込められているのは見ただけで分かる。



「ベアトリーチェが自らの人生、そして命をかけてジーン兄様の側にいるのを見ていて思ったんだ。 僕はどうしたら母様を幸せにしてあげられるんだろう…って……」



ダメ……クリストフ……。


愛する母親を手にかけるなんて…そんなのダメ……。


クリストフが剣を振り上げた時、地面が大きく揺れ動いた。



「何!?」



地震!?



「もう止められない…増幅した欲と狂気は誰にも止められはしない!! もう間もなく世界は滅びる!!!!」

「どういう事だ!! エデッッ!!!!」



アウロラがエデ伯母さまに掴みかかった。それなのにエデ伯母さまは不気味に笑っている。



「わたくしの毒は命を奪うだけではない。 心の闇を増幅させる事もできるのよ。 知らなかったでしょ?」

「人間の闇を増幅させたというのか? 心を弄ぶなど……そなたは神にでもなったつもりか!? 自分が何をしたのか分かっておるのか!?」

「っ、分かってるわよ!!!!」