目の前に大きな楕円形の鏡が現れた。驚いている間に映し出された光景に、更に驚いた。



「ジーン……」



騎士団のみんなと城内を駆け回っている。その隣にはアウロラの姿。


私を探してくれてるの?


ジーン……。



「っ、ジーン!! 私はここよ!! ここに居る!!!!」



鏡に縋りつき、目の前に映るジーンに向かって叫んだ。微かな希望も虚しく、私の声は届かない。



「愚かで可哀想なベアトリーチェ。 貴女はもうここから出ることはないのよ」

「それはどうだろうね」



この声……。


振り返って涙がこみ上げてきた。



「クリストフ!!」



クリストフは私の側に来ると片膝をついた。私の手を握り上げ、悲しそうな顔をした。



「よく此処が分かったわね」

「親子だからね。 母様の気配を辿ることなんて安易な事だよ。 ただ、この空間に入るには少し骨を折ったよ」

「また母の邪魔をするの?」

「邪魔をしているつもりはありません」

「その子の毒の進みを遅らせていたのは貴方でしょう? クリストフ。 それは母の邪魔をしてると言えないかしら?」



クリストフが毒を抑えてくれてたの?いつから?全然気がつかなかった。



「ベアトリーチェはジーン兄様のところへ連れて行くよ」



エデ伯母さまは口元を上げ歪ませると、口を開けて声高々に笑った。



「連れ戻って毒の治療をするの? ふふっ、それもいいでしょう。 けど、一つだけ言っておくわ。 ベアトリーチェ」



名前を呼ばれて緊張が走った。何度目か分からない嫌な予感が走る。



「戦争が始まれば負傷者が出るわ。 薬師や医師の力では限界があるでしょう?」

「何が言いたいの」

「貴女は癒しの力を使うわ。 断言できる」

「それが一体何!?」

「いくら毒の広がりを抑えようとも、力を使えば生命力を削られるわよ? 保険としてそういう呪いも加えておいたの」