いつも見かける柔らかく親しみやすい笑顔じゃなくて、無邪気な笑顔。この人はとてもよく笑う人だと思う。



「まだ何か付いてますか?」



左頬を摩りながら尋ねた。



「違うんだ、ごめん。 何も付いていないよ。 ただ目があった時のベアトリーチェの強張った顔が可笑しくてっ、ははっ」



「ははっ」って……。



「視線を感じる気がしたんですけど、まさかそんなに見られてるとは思わなかったもので驚いたんです」

「本当ごめん。 怒った?」

「怒ってませんけど、心臓に悪いのでやめて頂けると嬉しいです」

「仕事の時はこんな顔をするのか、と思ったらついつい見てしまったよ。 ごめんね、これからは気をつけるよ」



本当に悪いと思っているのか分からない顔で言われた。


クリストフ王子の瞳も黒色をしている。だけどジーンよりも柔らかく、キツイ印象はない。しょっちゅう外を出歩いているはずなのに肌は真っ白で、きめ細やかだ。



「お薬は食後に飲んで下さい。 数日分ご用意しておきます。 それでももし良くならない時はまたお呼びください」



立ち上がろうとしたら手を掴まれた。すらりと伸びた指は、羨ましいほど滑らかな肌触りだった。



「僕の診察はもう終わりだよね?」

「はい…そうですけど……」



流石に「まだ何か?」とは聞けなかった。突き放すような言い方をしたら、クリストフ王子は傷付いてしまいそうに思えた。


少し浮いたお尻を、しょうがなくまた椅子の上に乗せた。