私には理解出来なかった。


幼い頃寂しい想いは何度となくした。けど、愛を感じなかった日はない。


異母兄弟はいたけど、あまりにも関わりがなさ過ぎて、憎しみの感情は抱かなかった。憎むべき家族は一人としていなかった。



「エデのしでかした事が精霊王の耳に入り、エデは力を封じられ精霊界から永久追放された。 そしてプワゾンの花は消え去り、人の世に咲く事も無くなった」

「だがプワゾンの花は蘇った。 そしてまたベアトリーチェの命を狙い、身体を蝕んでいる。 そうだろ?」



ジーンの声は強く低く、怒られているわけではないのに、身が強張る様だった。



「何故だかは分からぬが、エデの力の封印が解けてしまったのかもしれない」

「仮にそうだとして、何故毒が身体の中に入ったんだ」

「それは……わらわにも分からぬ」



ジーンの苛立ちが伝わってくる。


私は胸に手を当てて目をつぶった。これまでの出来事を思い出そうとした。残酷な光景が浮かび、目をギュッとつぶった。その瞬間ハッとなった。



「ベアトリーチェ?」



心配そうな声でアウロラに名前を呼ばれた。



「胸がチクリとしたの……」

「「それはいつだ」」



アウロラとジーンの声が重なった。



「トゥーラン国でリリーちゃんが血だらけで倒れてたの…その時私……」

「……ベアトリーチェ?」



ジーンの手を両手で強く握った。見上げて口を開けた。



「憎いと思った……リリーちゃんを…街の人たちを傷付けた兵たちを憎いと思ったの……胸に醜い感情が広がった。 その時胸に微かに痛みが走ったッ、まだ毒が残ってたのかもしれないッ__私の心がプワゾンの毒を目覚めさせただけなのかもしれない……!! 伯母さまの仕業じゃないかも__」

「ベアトリーチェ、そなたあの時もブローチを付けておったな?」



いつの間にか目の前まで来ていたアウロラは床に膝をつき、私を見上げていた。怖いくらい真剣な眼差しに、ただ頷くことしかできなかった。