「お前の願いを聞き入れなかった事、謝るつもりはない」

「…………」



沈黙を破ったのはジーンだった。



「だがこれだけは謝っておく。 何も話さなくてすまなかった」



……え?ジーンの方に顔を向けた。けどジーンは真剣な顔つきで前だけを見つめている。


夕陽に当てられながらも、ジーンの漆黒の髪の毛、そして瞳は揺るがない。



「知って、たの……?」

「あぁ」



何処から何処まで知ってたの?いつから知ってたの?こうなる事が分かってたの?


ねぇ、ジーン……どうして何も言ってくれなかったの?



「どうして教えてくれなかったの!? 教えてくれてたら__」



“結果は変わってたかもしれないのに”……と言いかけてふと思いが過ぎる。後先考えず、感情で走った私にそんな事を言う資格があるの?



「ごめん、なさい……守ってくれてありがとう……」

「毎日楽しそうにニコニコ笑っているお前をまえにしたら、言い出せなかった。 笑顔を曇らせたくなかった」

「ジーン……」

「ただの言い訳だな。 すまなかった」



久しぶりに見るジーンの悲しそうな笑み。私だってジーンのこんな顔見たくなんかない。でもそうさせてるのは私のせい。


ジーンの胸に頭をつけ寄りかかった。トクンットクンッ…と聞こえる音。ホッとする。



「世界の邪魔になったなら、私を殺してって言った事覚えてる?」

「……あぁ」

「あれ本気だからね」

「守ると言っただろ」

「うん、凄く嬉しかった。 本当だよ? でもね、世界が壊れてしまう前に私を__」

「それ以上言ったら本気で怒るぞ」



少し間を置いて、私はまた口を開いた。



「国は人に生かされ、人は大地に生かされ、大地は天に生かされている……そうパパのノートに書かれてたの」

「ルーカス王の?」

「うん。 それを読んだ時にね、胸にストンって落ちる感じがしたんだよね」

「…………」

「人がいなくなったらもうそれは国とは呼べないんだよ。 ジーンは分かってるよね。 私なんかに言われなくたって……」



それからはお互い無言のまま夕陽を眺めていた。馬の蹄の音がやけに大きく聞こえた。