ダミアンさんのところへ戻ると、どうやったのか、おじさんの怒りが収まっていた。



「お嬢ちゃん、この国のことに首を突っ込まねー方がいい」

「え?」

「年々作物は育たなくなっていくは、貿易は盛んになって売れねーはで、農家がどんどん潰れてってな、税を納めらんなくなった奴らの末路だ、ありゃーよ。 あんま目立つ事してっとベッケル様に目ぇつけられちまうぞ」



そう言えばさっき女の子にベッケル様がどうのって言ってた。



「ベッケル様って誰ですか?」



雰囲気的に偉い人だって事は分かる。



「他所からきてっから分かんねーかも知んねーけど、おっかねー人だ。 ここら一帯の納税管理をしてるお役人様だよ。 祭り楽しんでほしいからよ、気ぃつけな」

「はい…ありがとうございます……」



おじさんはすぐ側の果物屋へと戻っていった。



「そんじゃまぁ、俺らも観光再開すっか」

「はい……」



もうこの件についてはここまで!と言わんばかりの雰囲気を醸し出され、お詫びもお礼も言えなかった。楽しく観光が出来るわけなく、胸に何かが引っかかっていた。私ばっかりが気にしていて、ダミアンさんはいつもと変わらない。流石、ジーンの側近だなと思ってしまった。



「あの……」

「んー??」

「さっきはすみませんでした。 それから、ありがとうございました」



やっぱりそれだけは言いたくて言ってしまった。するとダミアンさんは今日初めて苦笑いを浮かべた。



「心の優しいお嬢さんには酷な話だろう。 けどな、俺は出来ればお嬢さんにはこの国の暗部に足を踏み込んで欲しくない」

「どうしてですか? 私が知ったところで何がどう変わるわけでもないからですか?」

「そうじゃない。 俺は主人よりお嬢さんの護衛を任された。 それは何よりもお嬢さんの命を優先するってこった。 お嬢さんに手を出すものがいれば俺は迷わず殺す。 そうなればお嬢さんは胸を痛めるだろ?」



そんな風に考えていてくれたなんて思いもしなかった。私の考えはまだまだ浅はかだ。



「ごめんなさい」

「なぁに謝ってんだ! 暗い顔してちゃ時間が勿体ねー! 楽しむぞ!」



正直頭から離れなかったけど、ダミアンさんのお陰で無事観光することができた。