その日の夜、ジーン王子が部屋を訪ねてきた。



「今いいか?」

「うん、どうぞ」



顔を見たかったけど、朝のロアナとの話を思い出すと複雑な気持ちだった。



「里帰りはどうだった?」



ソファーに掛けながら話を振られた。私もレミーを手に抱えたままソファーに座った。隣に座ったけど、ちょっと恥ずかしくて拳一つ…いや、二つ、三つ分くらい開けて座った。



「教会のみんなとも会えたし、ヘンリーともずっと一緒にいられたし、それに……アゼル兄様とも少しだけど話しできたよ」

「アゼル兄様、か……少しは打ち解けられた様で安心した」



ジーン王子の手が顎に触れた。そのまま親指でスッと頬を撫でられた。



「お前はすぐに目をそらすな」



可笑しそうに笑われムッとすると、片手でほっぺを挟まれた。



「もう! 何するのよ!!」

「やっと俺の目を見たな」



「私怒ってるんだからね!」なんて言えなかった。久しぶりに会えたのに嫌な雰囲気にしたくない。



「大丈夫か?」

「何が?」

「荷が増えただろう? これから不自由さを感じる事も多いだろう。 何でも言え。 いいな?」

「うん、ありがと」



首元に腕を回され抱き寄せられた。後頭部に触れる大きな手。横顔に触れるジーン王子の逞しい胸板。


既に言いたいことは沢山ある。私の身分とは関係ない悩み。恋をする人が抱える悩み。私の事を気にかけてくれる事は嬉しい。だけど、私は貴方のことも聞きたい。貴方にとっては話す必要のないことかもしれないけど、私は気になってしょうがないんだよ。


ねぇ、気づいてよ……。