「あんたって血も涙もない男だね。最低」


澪は恭介を睨みつけた。

彼の眉根がかすかに動いた。


「元はといえば、あんたが奈美をこんな男に会わせたから。
全部あんたのせいだよ」


恭介が吐いたため息に煙草の苦い香りが混じっていた。


「もういいから帰れよ」

「キョウ。おまえ知ってたんだろ?奈美がこいつに殴られてるって。
きのう奈美が頬を真っ赤にして笠原ん家に来たんだよ。だから」

「だからなんだよ。おれに関係ないじゃん」

「関係ないって友達がひどい目に合ったら助けるのが当たり前だろ」

「どうして当たり前なんだよ」


キョウの冷ややかな目に、ヨネは言葉に詰まった。


「あんたなんとも思わないの?奈美がひどい目に合って少しも何とも思わないわけ?」


またあの言葉が恭介の口から出た。


「前にも言ったよな。自業自得だって。
大体そんなに嫌なら無視すればいいものを、のこのこと健二先輩の家に来た秋谷がわる」


恭介の体がよろめいた。

その隙を狙い、澪はまた彼の体を強く押した。その衝撃で、恭介は後ろにあったテーブルに尻餅をついた。その顔は少し驚いていた。


「今のあんた嫌い」


そう吐き捨てると、澪は店を後にした。

背後でヨネが呼ぶ声がしたけど澪は振り返らなかった。




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