「どうかした?」

「いえ、なんでもありません。ところで、どこ行くんですか?」

「もうすぐ着く。お楽しみに」

「はぁ」

お楽しみにと言われても、ねぇ?

苦い思い出を頭の隅に追いやっても、夜景が否応なしに私を過去へと引きずり込もうとする。

誰かを好きになったところで、あの時みたいに捨てられるんだったら、二度と恋愛なんてするものか。

私はそう誓ったんだ。

『あっちが本命。お前は都合のいい女』

別れ際に捨て台詞のように言われた言葉が蘇り、耳を塞ぎたい衝動にかられる。

たちまちに胸が苦しくなってくる。

「秘書室長、やっぱり私、帰ります。ここで降ろしてください」

「嫌だね」

あんな想いは二度としたくない。

今ならまだ引き返せる。

「私とデートしたって、なんにも面白いことなんてないですよ?」

「倉橋さん、今自分がどんな顔してるか、わかってる?」

「えっ!?」