今回の設定は、お嬢様と執事。

少しあるいたところで、優しく、そして豪快に健人が一回転をした。

その隙に、リボンをシュルッとほどいて、上に来ていたボレロを脱いで、

薔薇のがらがプリントされる透け感のある手袋をつける。

それを見たお客さんからは、拍手が起こる。

蒼のときよりも歓声が少ないことに、負けず嫌い魂が燃えたのか、隣で舌打ちをして

私の腰に手を回して、ぐっと引き寄せた。

そして、本番前に邪魔だといっていたマイクを口にちかずける。

「俺だけを見てください」

そういって、私の顎を優しく上に持ち上げて、

首筋を撫でる。

「ひゃっ!」

予定には無くて、心の準備ができていなかったから、

つい声が出てしまい、体育館中に響き渡る。

お客さんたちが、顔を赤くしてこちらを見ていて、

張りつめた空気が、ただよう。

そのあとに私の耳元で、「ばーか」と囁く。

さすがに私にも負けず嫌い魂があるから、

少し歩いて、

「ごめんなさい。私、bitter&chocolateという恋人がいるから」

と言う。

そうすると、健人が美しく、紳士にこつこつと手袋をつけ直しながら、あるきだす。

「それでこそ、お嬢様です。

1つだけ、最後にみなさんにささやかなプレゼントだけ」

さっと胸ポケットから、なにかを取り出して、

名刺サイズのカードをばらまく。

「では、お嬢様帰りましょう」

「『薔薇に願いを込めて』...また、会いましょう」