薔薇に願いを込めて

向かう先には1人の人影。

「蒼」

「待ってたよ」

ペアを頼んだときよりかは、落ち着いていて、

普段通りの蒼といった感じに見えた。

でも、顔の血色が少し悪いような気がしなくもない。

「蒼、似合ってるよ!」

濁った空気が心地悪くて、ひきつった笑顔で明るくさせようとしたけど、やっぱり幼なじみは違った。

「ありがとう。でも、無理しないで?

僕今、とてつもなく緊張してるんだ。

お互い心のなかはきっと、ごちゃごちゃになってるよねー。

あ、あと桜も似合ってるよ、そのドレス」

「本当に?」

「本当に」

「お世辞だよね?」

「お世辞じゃない」

「嘘だよね?」

「嘘じゃない」

「じゃあ、信じる」

「信じて?

...嘘偽りのない真実の言葉だよ。

さっきまでずっと見てたけど、これがいつもの桜?って思うくらい輝いてた。

桜と僕じゃ、釣り合わないかもしれない。

けど僕だって、たまには強引なんだよ」

腕を強く引っ張られて、私は蒼の胸のなかにすっぽりと収まっていた。

心臓の音が聞こえる。

ドクンドクンって何度も何度も脈をうつ。

「この間だけはさ、僕だけを感じて。

周りが見えなくなるくらいに、夢中にさせるから」

「えっ!?」

指を絡ませてきたと気付いたときには、恋人繋ぎになっていた。

「行くよ!」

「うっ...うん」

何が起こったのか理解しきれなかった間に、

私は、歓声の渦に巻き込まれていた。