「おい、ユメ」

「ふぎゃ」

ちょうど、校門から出たところで、私の頭に、かばんが降ってきた。


声で分かる。橘だ。

変に動揺してしまう。

昨日までは普通だったんだ。

落ち着け、私。


「かばん軽いなー、勉強してないんじゃないの?」

「おぉ。 ご明察」


橘は、嬉しそうに笑う。

一瞬、笑顔がいいなと思ってしまったのは秘密だ。


「橘は、こんな時間まで・・・って、部活か」

「そうそう。 こう見えてエースだからな」

「将棋部のね、ぷぷ」


「ひでーな、笑うことねぇーじゃん」

「やっぱり似合わないよー」


大丈夫。普通にしゃべれる。


「それで、何か用? 待ってたんでしょ?」

「おぉ。 ばれてんのな」


ばれても橘は、隠そうともせず、堂々と笑う。

こーゆーとこも、嫌いじゃない。


「私を誰だと思ってるの? 夢見心地探偵でおなじみのユメちゃんだよ?」

「おみそれしました。 で、犯人は?」

「そうね。 発見当時、部屋には鍵がかかっていて、窓もしまっていた」

「つまり、密室だったと?」

「そうです。 そして犯人は、部屋の中にいた、ジョアンナさん。 あなたですね」

「おい、密室かんけーねぇーじゃん! んで、誰だよ、ジョアンナ!」

「脳内彼氏です」

「もう犯人、お前じゃんか」


いつも通り。

いや、いつもよりテンションが高かったのは、

二人とも何かを振り払おうとしていたんだと思う。



気を抜くと、気まずくなってしまいそうな、何かを。