「えーと、」
私は、絵本が好きだ。
読みやすいし、今、もう一度読むと、新しい発見があって面白い。
図書館の端にある、小さな絵本のコーナー。
「ユメ、これなんか好きじゃね?」
すっ、と本が出てきた。
「あ、うん、好き好き。 意外と考えさせられるよね」
本をめくりながら答える。
「ここのページとか、怖かったから、子どもの時、読み飛ばしてたなぁ」
「分かる。 怖くないって分かった後で読んでも、怖くなるんだよな。 あれ、謎だよな」
橘は、エロで台無しになるが、エロだけじゃない。
面白いし、話しやすい。
欠点がエロさなのだ。
私にも欠点のひとつやふたつあるので、まぁ、大目に見れるものは大目に見ている。
今も、一瞬、胸の方に視線が動いた。
本当に、こういうとこがなければなぁ。
静月ちゃんに言わせたら、
「人間なんて、そんなもんでしょ。 魅力的な部分は見てしまうもの。夢 実も腕の血管が浮き出てたら見るでしょ?」
と、バッサリと切り捨てられてしまった。
事実、見る。ごっつりと見る。
「ユメ、最近、なんかあった?」
「え、どして?」
「時々元気ないように見えて」
私、そんなに顔に出るタイプじゃないはずたけど。
なんで、分かるんだろう。
そんなに、見られてる?
「うん。ちょっとね」
「俺だったら、お前にそんな顔させないのにな」
一瞬、橘の顔から、笑顔が消えて、すごく真剣なまなざしになった。
そのまなざしは、まっすぐ私の瞳を見つめている。
「え?」
「俺に乗り換えないかって、言ってんの」
こんな橘の表情見たことない。いつも、もっとへらへらしてて、顔はいいのにもったいない奴なのに。
そのまなざしのまま、橘が近付いてくる。
雰囲気に圧倒されて、後ろに下がったけど、背中に本棚の感触がした。
橘と本棚に挟まれる。
「なぁ、ユメ?」
橘に名前を呼ばれて、はじめてドキドキしている。
これは、どういうことだろうか。
違う違う。びっくりしているだけなんだ。
そうじゃないと、そうじゃないと。
さらに、近づく。
もう、ほとんど距離はない。
橘がそっと、本を傷ませないように本棚に手をかける。
あ、こういう小さな気遣いができるところは好きだ。
腕から視線を戻すと、また、橘と視線が絡まった。
胸が高鳴っているのが分かる。
少し、この隙に、胸とかに目線がいってると思ってたけど、まったくない。
すごく真剣だった。
これじゃあ、ただの誠実なやつだ。
断る理由がなくなってしまう。
なんとなく分かっている。
橘は、付き合う人は幸せだろう。
楽しませてくれて、
気も遣ってくれて、
守ってくれて、
それなりに、格好いい。
でも、それでも、
「ごめん、橘。 橘も嫌いじゃないけど・・・」
「そか。 わりぃ、気を遣わせたな」
体が離れる。
それは、なぜか少し寂しいことだった。
「ちぇ、せっかくエロいことできると・・・」
「もぅ、ばか」
言ってこづく。
橘の表情には、いつものへらへらさが戻っていた。
たぶん彼のエロさは、彼を守る盾なんだ。
そうやって、気を遣っているんだ。
少し分かってしまった。
「また、元気なかったら、いつでも狙うからな」
笑って、橘は、立ち去る。
一瞬、目もとが光っていたように見えたけど、たぶん見間違えではないと思う。
ふぅ。
とりあえず、鼓動を落ち着かせる。
大丈夫。
平静を保てる。
まだ、顔は赤いだろうから、絵本を一冊読んでから、ここを出よう。



