もう十年ぐらい前の写真だろうか、僕がまだ黒いランドセルを背負っているなつかしい写真だ。
このころはまだ一緒に父親と暮らしていたが、僕が中学入学と同時に父は勤めていた今の会社を退職し、海外の投資会社に入社した。そのおかげて海外で暮らしている父親から毎月たくさんの生活費が仕送られてくるが、その反面、昔みたいに明るい家庭を失った。

「お母さん。お金はじゅうぶんあるのに夜おそくまで働くの？もう、お父さんの仕送りだけでじゅうぶん生活できると思うけど」

僕は整った眉を八の字にして、母親にそう訊いた。

「お金がたくさんあっても、働かないといけないのよ。人間、いつお金がなくなるかわからないからね。だから、働くのよ。わかった、願？」

「まぁ、なんとなく」

僕は、あいまいに返事した。

「願は、かしこいね。さすが、私たちの子供」

母親は笑みを浮かべて、僕の頭を優しくなでた。

母親が夜おそくなるというのは、仕事でおそくなるのではないことはなんとなくわかっていた。
僕の母親はパートタイマーで働いているため、夕方には仕事が終わる。しかし、母親が家に帰ってくるのは、午後九時三十分。もしくは、それ以上におそくなるときもある。