「ねぇ、お酒飲むのやめたら。体にも悪いし、意味ないよ」

僕は、優しい口調で母親に言った。

「うるさいわね。子供が、親のやってることに文句言わないでくれる!」

母親の口調が、わずかに強くなった。

母親はお酒を飲むと、人が変わったように乱暴になる。口調から、態度まで。父親と一緒に暮らしていたときは家庭的でやさしい母親だったが、今はどこかさびしい気持ちをお酒で紛らわしているように見える。

「きっとお父さん、今のお母さんの姿を見たら悲しむよ」

「うるさいわね!」

怒鳴り声を上げて、母親は僕の頬をパチンと平手打ちした。

頬に痛みを感じて、僕の顔が横に向いた。

「私は、この生活で幸せなの!」

そう言った言葉とは裏腹に、母親の瞳に悲哀の色が浮かび上がっていた。

父親と母親は僕が中学生のころから四年間会っておらず、連絡すらなかった。昔のような夫婦関係はなくなりつつあり、お互い今の家庭を知らない状態だ。唯一、夫婦をつなげているのが、毎月送られてくる父親からのお金だった。でも最近、そのお金もほとんど母親のお酒で消えていった。

「子供のあんたは、親のことに口出ししないで!」

怒鳴り声を上げて、母親はそのまま寝に行った。

僕は母親のカバンからサイフを手に取って中身をのぞいて見たが、お札は一枚も入ってなかった。