「コラ!願。野菜も食べなさい」

僕が野菜を食べていないことに気づいた母親が、むっと眉間にしわを寄せて注意した。

「食パン食べたら、お腹いっぱいになったんだよ」

僕は自分のお腹を右手で軽くさすりながら、そう言った。

「はぁ。野菜も食べないと、病気になるよ」

母親は呆れた表情を浮かべて、食器を引き上げた。

母親に言われたところで、嫌いな野菜は食べる気にはなれない。そこに、〝愛情〟がないからだ。好きな人に同じ言葉を言われたら、僕は嫌いな野菜だって食べれる………はず。

「広瀬さん………」

僕は、彼女の名字を口にした。

広瀬さんとは幼稚園のときからの付き合いで、高校も一緒の同じ学校に通っている。
小学校低学年ぐらいまでは、彼女のことを゛蕾ちゃん〟と下の名前で呼んでいたが、年を重ねていくにつれて名字で呼ぶようになった。