「つぼみ」

僕は、その女性の名前を呼んだ。

「やっぱり、願も神社に来たんだ」

僕のことを呼び捨てにして、つぼみは振り向いた。

「また朝礼、サボりに来たの?」

少しだけ笑って、つぼみは僕にそう言った。

「いや、違う。今日は学校行く前に、なんとなく神社に寄りたかったんだ」

それは、僕の本音だった。

「私も」

とても短い言葉だったが、つぼみの気持ちもそれが本音だということがわかった。

「つぼみは神社で、なんか願ってたのか?」

僕がそうたずねると、つぼみは「うん、願ってたよ」と言った。

「なに、願ったの?」

つぼみの願いが気になったのか、僕の声が少し大きくなった。

「『転校しても、私の前に好きな人が現れませんように。そしていつかまた、願と尊人と会えますように』って願ったの」

つぼみの願いを聞いて、僕の目頭が熱くなった。

「おい二人とも、早く学校に行かないと間に合わないぞ」

「わかった。行こう、願」

いつのまにか神社に到着していた尊人に呼ばれて、僕たちは学校に向かった。