「楽しかったぶん、それを失ったときが悲しくなるからね」

「わかってたんだね」

僕は、沈んだ声で言った。

脳裏に父親と過ごした短い一週間がよみがえり、涙が自然とあふれた。

「それは、わかるよ。その幸せが、ずっと続くと約束されているわけじゃないからね。君が一万円を納めたぶん、代わりに君の願いをひとつ叶えてあげてるからね。つまり、交換条件みたいなもんよ。それも、君のお金が続くまでのね」

僕の胸を指差して、女神様は正論を言った。その言葉を聞いて、僕は心臓をわしづかみにされたような思いになった。

「お金が………続くまで………」

開いた口から出た、僕の声はかすれていた。

神社にある樹木の木々の間から朝日が差し込み、僕の足元に映っている、自分の黒い影がなんだか悲しく見えた。