「昼食を食べる準備をしといてくれ。その間、俺は願としゃべってるよ」

父親は母親に視線を向けたまま、そう言った。

「お父………さん」

そう口にした僕の声が、かすかに震えていた。

父親と二人で会話するのは小学生以降なかったせいか、きんちょうした。それでも、久しぶりに父親と話せることはうれしかった。

「わかったわ」

「すまないな」

母親の苦笑いを見て、父親はそう言った。




「願にとって、この場所は家族と出かけた思い出の場所か?」

「うん、そうだよ」

父親の質問に、僕はうなずいた。

母親が昼食の準備をしてくれている間、僕と父親は公園内を歩いていた。天気にも恵まれたせいか、公園には僕たち以外の人の姿も見えた。

「お父さんの思い出の場所とかあるの?」

「俺か?」

「うん」

「そうだなぁ、一番の思い出は決められないなぁ。願と一緒に行った海も俺の大切な思い出だし、この公園も大切な思い出だよ。だから、願と一緒に過ごしたことが俺の一番の思い出かな?」

笑顔を浮かべて言った父親は、少し照れくさそうだった。父親の口から初めて聞いた言葉を耳にした僕は、驚いた。

今まで仕事ばかりで家族と過ごす時間が短かっただけに、父親の頭に僕たちと過ごした思い出なんかないと思っていた。しかし、父親の頭に僕たちと過ごした思い出が残っていたことをこのとき初めて知れてうれしかった。