「別にいいよ」

僕は、平然と言った。

僕がなにかをおごるようになったのは、父親が海外で働き始めたのとほぼ同時だった。つまり、中学生ぐらいから、彼におごり続けている。

「いつも悪いな、願。おごってもらってばっかりで、なにも返さなくて」

尊人が、苦笑しながらそう言った。

「いいよ」

僕は、さらっと言った。

ほしい物があったらお金で自分で買えるから、彼からのお返しはむしろ必要なかった。そして最近では、そのお金すらもいらなく思えてきた。

「はぁ、やっとのぼれた」

口から深いため息をこぼした僕は、やっと坂道をのぼった。坂道をのぼると、僕の住んでいる゛欲神町〟の小さな街の景色が見える。

古くから神様が住んでいる町と言われており、神社に賽銭箱を入れて心の中で祈ると願いが叶うと言われているが、いまだに僕は一度も叶ったことがない。

「僕、いくら神様にお金納めたんだろう?」

そう思って僕は、神社の方に視線を移した。

僕の数十メートル先にある、もう見慣れた赤い鳥居と神社が見えた。少し先に進んだところには僕の通っている学校が見え、制服を着て自転車に乗って通学している生徒たちの姿が見えた。