「ーーと、いう訳でありがとうな!チヨコ

のチョコ、シュン喜んで食べてくれたよ!」


サユリは、バレンタイン前日の夕方、混み合

っている時に、千代とその執事にお礼を言い

にきた。今千代達はこの3人以外誰もいない、

従業員室にいる。


「小さい頃から友達が出来にくい坊ちゃんと

仲良くして下さったご近所様のサユリ様に褒

められて私は光栄で..」


「ていうか、今日バレンタインじゃないだろ

、ユリ姉明日だろ」


と、無愛想にサユリと会話する千代。執事が

おやおやと坊ちゃんの様子を伺う。


「あっ、そうだったっけ!?まあ、どっちで

もいいのさ」


ニコッと笑い、千代の頭をクシャクシャーッ

とサユリは雑に撫でた。


「っおい!やめろよ!」


と言いつつ、顔が赤くなる千代をニマニマと

見てサユリは笑う。


「あんたは好きな人いないの!?もう高校生

だし恋愛の一つや二つ..」


「ユリ姉」


と、千代はサユリを睨んだ。ヤンキー気質の

サユリは怯まないが、おや?となった。


「もう帰ってくれ、僕は今忙しいんだ」


と、立ち上がって千代は従業員室から出てし

まった。


「坊ちゃん!」


と執事が言った時には遅い。千代はもうお店

に出た。はあーっと息を吐き、執事は頭を押

さえる。素直じゃないんだから、あの人は。


「サユリ様、私もここで失礼します。」


「おー私も帰るよ、アイツ、思春期だなあー




そう言って、千代と2つしか年の違わないサ

ユリはスキップをして帰っていった。



ユリ姉、ついにあの男にチョコ渡せたんだ...



去年、渡せなかったと小さく笑う、サユリを

思い出した。キャラじゃない、傷付いた表情

は、嘘の笑顔に隠せてなかった。


「店員さーん?」


「あっ、いらっしゃいませお客様、申し訳

ありません」


と、僕は慌てて駆け出すフリをする。

その営業スマイルは、どこか、ぎこちなかった