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「別れよう。」

ちゃんと言うって決めた。私の見る目が無かった。

そもそも付き合ったのだって、明人くんを忘れるために、勢いで決めたことだ。

もっとちゃんと、考えるべきだったんだ。

「え、待てよ、急に何で?」

健吾は、かなり動揺している。

どうして動揺しているのか、全く分からないよ。

だって健吾は……。

「私のこと、好きじゃないなら、無理に付き合わなくていいよ。」

今度は泣いちゃわないように。

いや、もう泣く気力すら無いや。

「何言ってんだよ!俺はお前が好きだよ。」

『好き』

もう、そんな言葉は、1ミリも信じることができない。

明人くんだって、健吾だって、結局は同じだった。

「何かあった……?」

なんで?どうしてそんなに、普通でいられるの?

健吾が私を抱き寄せた。

「離して!!」

私はその手を振りほどいた。健吾は凄く驚いている。

「……聞いちゃったんだ。この前、教室で健吾が友達と話してたこと。」

健吾の顔色が、サッと変わった。

「5センチ足りなくてごめんね……。」

驚いたよね。まさか聞かれてるなんて、思いもしなかったはずだよね。

「それは……、違うんだ!」

「違くないでしょ!」

これ以上、普通に話していたら、本当におかしくなりそうで、叫ぶしかなかった。

付き合ってから、初めて本音で話している気が
する。

「健吾は幼馴染みだから、信じてたのに……。私のこと、内面で見てくれるって、信じてたのに……!」

それなのに……。

「ごめん……。」

謝られたって、許すことなんてできない。

「許してくれ。」

「嫌だ。」

「お願い、この通りだ!」

健吾がその場で土下座する。

「嫌だ!!」

嫌というより、無理だよそんなの。

今すぐ許して、何も無かったことにして、また昨日までと同じように接するなんて。

私には無理だ……。

すると、健吾の顔つきが変わった。

え……、何これ。こんな顔、見たことない……。

「ああ、そうかよ。だったら好きにしろ。その代わり、もう二度と、俺に近づくな!」

え…………?

「じゃあな。」

健吾の姿が、だんだんと小さくなっていく。

何それ……。健吾が傷つくこと言ったのに、逆ギレ?……意味わかんない……。

そして私達は、その日から一切、話すことがなくなった。

スクープ!
〜特進科Aカップル、破局!?〜


「何これ……。」

ある日、学校へ行くと、そんな張り紙が、新聞部によって、張り出されていた。

私の名前と健吾の名前が書かれていて、写真まで掲載されている。

「あ、あの子だよ……!」

そこにいた人たちが、一斉に私の方を向いた。

「本当だー!めっちゃ可愛いじゃん。」

「健吾くん、惜しいことしたね〜。」

「それなー。」

なんで……、どうしてこんなことになってるの?

「日奈子さん!!おはようございます!新聞部の部長です!健吾さんと破局した理由を教えてくれませんでしょうか!?」

な、なんなの……?この人……!

「ちょっと、やめてください!」

「やっぱりそこは、秘密なんでしょうか〜?」

「答えることは、何もありません!!」

も〜、意味わかんない。

この学校にカップルなんていくらでもいるはずでしょ?

何でわざわざ私達がスクープされなくちゃいけないの?別れたから?

でも、今までこんな記事、見たことないよ。

新聞部部長をなんとか振り払うと、今度は……、

「あ、君、日奈子さん?」

はっ!?誰、この人!

「俺、3年の三上って言うんだけどさ〜、君、可愛いよね〜?俺と付き合わない?」

は、はぁ!?

「つ、付き合いません!」

見ず知らずの人と誰が付き合うっていうの!?

「ケチ〜。」

これ以上、面倒くさそうなので、私は教室まで
逃げた。

教室へ行くと、女子が身長の話をしていた。

「お前、チビだな〜。」

クラスの中でも、背の高い方の女子が、私の次に背の低い女子にそう言った。

「酷〜い!」

とか言いながら、嬉しそうだけど……。

「でも、見て見て〜!私、一番低くないよ!日奈子ちゃんの方が、低いもん!」

ズキンッ

分かってる。

この子に悪気はないんだよ。

ノリで言ってるだけだって……。

「やめなよぉ、日奈子ちゃんが可哀想じゃん。」

可哀想……。

「そうだよ〜、可哀想だよ〜。」

「そんな、私なら大丈夫だよ。」

上手く笑えているかな……?

『可哀想』

私、そんな風に思われているんだ……。身長が低くて可哀想って……、そんな風に……。

絶望に満ちた。私の将来、良いことなんて一つも無いんだ……。

その日から私は、学校以外は引きこもることに決めた。

人とは関わらないようにすることも決めた。

そうこうしているうちに、成績は特進科Aで1位になった。

しかし、人目が気になってしまって、次第に学校へ行けなくなった。

そして、高2の春、とうとう私は、完全に学校へ行かなくなった。