36.5



「日奈子……、落ち込むなよ。」

明人が出ていった後、正直僕はどのようにフォローしたら良いかも分からず、さっき自分が言った言葉が日奈子にとっての励ましになっているのかどうかさえ、定かではなかった。

「あの、えっと、ごめん。僕のさっきの言葉、もし傷ついてたりしたら……。」

「落ち込んでなんてないし、傷ついてもないよ。」

日奈子が顔を上げて言った。

「嬉しかった。私こそごめん。颯磨くんは人のこと、外見で判断するような人じゃないって分かってたつもりだったのに……、一瞬でも疑っちゃって。」

僕は首を振る。

そんなの、いい。

過去に色々あったんだ。

疑っても仕方ない。

それに、僕のこと、最後にちゃんと信じてくれたなら、嬉しい。

一応、励ましになってたのかな、あの言葉。

『僕が好きなのは、いつも素直で、誰にでも優しい日奈子だよ。身長が高い日奈子じゃない。でもそれと同時に、身長が低い日奈子でもない。』

言って良かっ…………、ん?

僕は、先程の言葉を思い出して、顔を伏せる。

「?……颯磨くん??」

やってしまった!!!

『僕が好きなのは、いつも素直で、誰にでも優しい日奈子だよ』

これって……!

ほぼ告白したのと同じことじゃないか……!!!

「あ、あの、さっきの言葉……!」

「さっきの言葉?」

どうしよう、訂正しようか……?

それとも……。

いや、本当はもう抑えられないはずだったんだ。

自分の気持ちに嘘をつくのは、もうやめた。

---告白しよう。---

「さっきの、僕が好きなのは、いつも素直で、誰にでも優しい日奈子だっていう、言葉……。」

熱い……。

伏せていた顔を上げて、佳純を真っ直ぐに見つめる。

「その、好きって……。」

「わ、分かってるよ!!」

えっ!?

ええっ……!?

わ、分かってる……!?

「友達として!友達としてとか、人間的にっていう意味だよね。大丈夫、分かってるから。」



「違っ……!そうじゃなくて……!!」

ピーンポーンパーンポーン

………………。

………………最悪だ。

告白しようとしたその時、アナウンスが流れてきた。

「『恋人迷路』終了まで、残り5分です。今いる生徒は、速やかに迷路から出ましょう。」

神を恨む。

せっかく勇気を持てたのに……。

あと10分もしたら、いや、5分もしないうちに、僕の気持ちは変わってしまうかもしれない。

また、臆病な僕に戻り、このタイミングを失ったら、もう勇気なんて一生持てない気がするのに……。

「行こう。」

結局タイミングを逃した僕は、そう言った。

いや、そう言うことしかできなかった。

という方が正しいのだろう。

「うん、そうだね。」

恋人迷路を出ると、放送がかかった。

ピーンポーンパーンポーン

「えー、先程の恋人迷路で、一部の生徒に、あるアンケートを取りました。その結果として、今から10分後までに、辰巳大輔さん、水瀬颯磨さん、橋田澄春さんは、放送室へ来て下さい。」

は………………?