30.7



やっぱり、利用なんてできないじゃん……。

日奈子ちゃんが僕を誘ったのは、僕が気になっているからじゃない。

颯磨くんを忘れるため。

あの場にいた全員が、簡単に分かったことだ。

だから、そろそろ京くんが動くと思っていたんだ。

そして、そのタイミングに合わせて、こっちも動こうと思っていた為、予め言っておいた。

『日奈子ちゃん、やっぱり颯磨くんと一緒に行きたいんじゃない?』

『で、でも……。颯磨くんには先約が……。』

『先約が入っていても、やっぱりちゃんと言うべきだと思う。』

だって、見ていられなかったんだ。

2人が両想いだということを知っていながら、その気持ちを無視して、2人を引き離そうとするなんて……。

例え、それで愛美との仲が戻るとしても、それでもやっぱり耐えられなかった。

逆に愛美は、何のためらいもないのだろうか……?

「やっぱり、昔から最低だよな……。」

そして、日奈子ちゃんの背中を押して、日奈子ちゃんはたった今、颯磨くんと話をしているところだろう。

お人好しかもしれないけど、でも……。

その時、遠くの方から人影が見えた。

日奈子ちゃん……!

あの表情……。

って、まさかそんな……!

「澄春くん……。」

日奈子ちゃんはそのまま泣き出した。

「だ、大丈夫……!?じゃ……ない……よね……。」

「駄目だった……。駄目だったよ、澄春くん……。」

僕は日奈子ちゃんの頭と背中を撫でて、そっと抱き寄せた。

「頑張ったよ、日奈子ちゃんは。」

「私、今度こそ忘れるから……。絶対、忘れるから……!」

「無理しなくて良いよ。」

好きな人が悲しんでいたら、僕も悲しいから。

それにしても……、颯磨くん、思った以上に鈍いんだな……。

良いの?

今度こそ僕が取るよ?

もういい加減、手伝わないよ。

でも、そう思っても……。

僕は颯磨くんに最後のチャンスをあげようと思った。

だから、京くんに言ったんだ。

「京くん、一つだけお願いがあるんだ。」

もしかしたら、京くんと真面目に話すのは、これが初めてかもしれない。

絶対にこれが最後だから。

だから颯磨くん、今度こそ気づいてよね。

自分の本当の気持ちに。

「手伝って……もらえないかな……?」