28.5



言ってしまいそうになった。

そんな自分に驚いている。

ギリギリのところで理性がはたらいた。

そして、動揺を隠せない。

「水瀬くん。」

橋田さんが戻ってきた。

「どうしたの?なんか、驚いてる表情。」

えっ……!

「どんな?」

なるべく冷静に答えているつもりだ。

「そのまんま。驚いてる表情だよ。そんな表情、初めて見たな。」

「ん、まあ、少し驚いて……。」

自分が言おうとしたことに……。

「何で?何に驚いたの?」

橋田さんが、攻めるように質問をする。

「えっ……と、日奈子が……来て。」

嘘をつく必要はないと思い、本当のことを言った。

「日奈子ちゃんって……、この前言ってた子?」

「うん。」

すると、橋田さんの表情が、サッと変わった。

「そういうことか……。」

彼女の中で、彼女なりに何かを解釈したらしい。

「そういうことって?」

僕は聞く。

「私が職員室へ行くように嘘をつかれた。そして、女子達に長話をされた。ここまで来れば分かる。」

鋭い……。

「ごめん……。」

「謝る必要はないよ。でもさ、水瀬くんって、嘘が嫌いだよね?だから、てっきり女子達を注意しに来ると思ったから。」

「ごめん……、助けられなくて……。」

今になって冷静なことを考えたら、僕だって加害者だ。

「ううん、そうじゃなくて……。」

橋田さんが、一瞬だけ目を伏せる。

「本当に好きなんだね……。」

ドクンッ

本当に……好き……?

「日奈子ちゃんって、どんな子?」

どんな子……。

そうだな……。

「凄く素直。だけど、変な所で人に気を使って、なんか、損してるような……。」

全然上手く言葉にできない。

「一言じゃ、表せない。」

例え表せたとしても……、そしたら完全に諦められなくなる……。

「へぇ。一途。」

「別に……。」

「会ってみたいな。」

「橋田さんなら仲良くなれると思うよ。」

そう言うと、橋田さんは少し不思議そうな顔をした。

「私、結構嫌われ者だよ?」

「日奈子は他の人とは違うから。絶対仲良くできる。そういう子だよ。」

やっぱり、無理なんだ。

諦めるなんて……。

僕はまだ、日奈子のことが好きなんだ……。