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「話があるんだ……。」

「何……?」

私は恐る恐る尋ねる。

怖いよ。
何でだろう。今までには1度もなかったような雰囲気。

明人くんは、いつだって私の王子様で、優しかったはずなのに……。
今はそれが怖い。

「もう……、僕と別れてほしい……。」

重いもので、頭をガツンと殴られたような気分だった。

「えっ……?」

別れるって……、何……?

「ど、どうして……?私、何が悪いことしたかな?」

明人くんには、付き合った時から、嫌われたくなくて、頑張って努力してきたつもりだったのに、どうして……?

「お節介だったとか……?」

私が、勝手に明人くんを王子様だと思い込んで、明人くんに尽くしすぎて、それで……、

「違うよ!」

違うの……?

じゃあ……、何……?

身に覚えがないよ……。

「身長だよ!!」

えっ……、身長……?

意外すぎる言葉に、動揺を隠せない。

今、どんな顔で明人くんを見つめているのだろう。

「お前と歩いてると、父親と間違えられそうで嫌なんだよ。」

え……、えっ……?

な、何を言ってるの?明人くん。

意味が分からないよ。

「身長、小1の時からクラスで1番低いんだっけ?ごめん、普通に論外。」

論外……。

「だから、もうお前とは無理。別れよう。」

私は何も言えなくて、どうしたらいいのか分からなくて、しばらくそこに、佇んでいた。

え……、何……?私……フラれたの……?えっ……?

頭の中で、何が起こったのか理解できた瞬間、
一気に涙が込み上げてきた。

駄目だ。こんな所で泣いちゃ……。

私はやっとの思いで涙を堪える。

身長……?何で?どうして身長が低いだけで、別れなくちゃいけないの……?そんなに迷惑だった?私と歩くことが……。

父親に間違えられるのが嫌だなんて……。そんな……。

そう思うと、急に怖くなった。

あんなに優しい明人くんでさえ、そう思うんだ。
だとしたら、他のみんなは……?みんなはもっと……。

ずっと、周りから論外だと思われていたっていうこと……?そんな……。

今、立ってるこの瞬間だって、私のことを、良く
思っていない人が、沢山いるのかもしれない。

そんなの嫌だ……、怖い……。もう、生きていけない……。

私は何も考えず、歩道橋まで走った。

人通りが少ない歩道橋だし、ここなら……。

私は歩道橋の手すりに足をかける。

そんなこと、今まで考えたことすらなかった。

私の身長が、プラスになるとも、マイナスになるとも思ったことがなかった。

王子様だと思っていた人は、王子様じゃなかった。

王子様がいない。

いや、それ以前に、私はお姫様ではない……。
だから、王子様がいないのは、当たり前だったんだ……。

何でそれにもっと早く気づかなかったんだろう……。

明人くんがいないなら、王子様がいないなら、私は生きている意味なんてない。

夢だった。夢は所詮、現実にはならない。

夢だったんだ。

今度、生まれ変わったら、もっと……、高い身長で……、それで、お姫様に……、

生まれてくるんだ。

全体重を、前方に傾けたとき……、

「ちょっと!何やってるんですか!!」

誰かが私の腕を引いた。

「離してください!!」

私は必死でその手を振りほどこうとする。

「離しません!こんなこと駄目ですよ!!」

男の人……。
この人だって、思ってるんでしょ……?
私の身長のこと、悪く思っているんでしょ……?

「心の中では笑ってるくせに!こういう時ばっかり助けるんですね!最低です!!」

もう、わけが分からなくて……、明人くんに対する、悲しみとか、怒りとか……、

私……、どうして、この人に当たっているんだろう……。

この人は、ただ助けてくれただけなのに。

「……は?何、言ってるんですか?」

そして何故か、顔を見たら、涙が溢れ出てきた。

嫌だ私、何でここに来て涙が出てるの?

明人くんに別れを告げられた時は、ショックだったはずなのに、涙が出なかった。

なのに、何で、今なの……!?

しかも、人前なのに……。

「……何かありましたか……?」

涙が止まらなくて、言葉にならない。

「取り敢えず、こっち。」

その人は、私の手を引いて、人気が全く無い、公園のベンチに座らせた。

「はい、どうぞ。」

近くの自動販売機で、はちみつレモンを買って
くださった。

「そんな……。」

「遠慮しないでください。こういう時は、お互い様ですよ。」

「あ、ありがとうございます。 」

私は素直にそれを受け取ることにした。

「それで?何があったんですか?」

「……彼氏に……、フラれました……。」

そう言うと、その人は目を丸くした。

「彼氏にフラれただけで、こんなことしちゃ駄目ですって!これからいい出会いがあるかもしれないのに!」

「そうじゃないんです……。フラれた理由が……。」

思い出すだけでも、死にたくなる。

「私、2日後から、高校生になるのに、こんな身長だから……。」

低いって、思われたよね……。一緒にいたくないって、思ったよね……。

「それで、私といると、彼氏じゃなくて、父親に見えるから、一緒に歩きたくないって言われてしまって……。」

だから、もう生きていても仕方がないと思ったんだ。

「そっか。」

その人は、私の頭を、ポンポンと撫でた。

「もう、生きてる意味なんて無いんです。どうせみんな、私のこと、良く思ってない。一緒に歩きたくないって思ってる。馬鹿にしてる。」

「そんなこと……、」

「あるに決まってます!」

かなり強い口調で、そう言ってしまった。

「落ち着いてください。」

「あなただって、そう思ってるんでしょ?それなのに、そういう同情はいらないです。」

「僕は……、」

「嘘つかないでくださっ……!!」

チュッ……

え……?えっ……?えっ……!えええっ!?

何これ何これ……!キ、キス……!?!?

「とにかく、そんなに自分を否定しないでください。」

そんな……、何でそんなに平常心でいられるの!?

「あ、そういえば僕も、2日後に入学式なんですよ。偶然ですね。」

その人は、クスクスと笑う。
だから、何で!?何でそんなに……!!

「高校生活、お互いに頑張りましょうね!じゃあ。」

そう言うと、その人は立ち上がって、歩き出した。

あ、ちょっと……!

「ちょっと待ってください!」

その人が振り返る。

「あの、ありがとうございます……!」

な、何言ってるんだ、私!!

「いえいえ。もうあんなことしちゃ駄目ですよ。」

「え、あ、はいっ!」

私は、慌てて返事をした。

な、なななな何!?、今の!!

キ、キスなんて……、明人くんともしたこと無かったのに……。