「お兄ちゃんから聞いて……思い出しました」
「えらく時間がかかったね。まぁ、俺もネコから名前聞くまでは気付かなかったんだけど」
 
今の三メートルの物理的な距離が、心の距離をそのまま遠ざけているような気がする。
下から小さく聞こえる喧騒が逆にこの沈黙を強調して、私のむなしくも悲しい気持ちを表しているみたいだ。

「なんで来なかったの? 二週間も」
 
ふいに口を開くウソツキさん。私は視線を落として、返事をためらった。

「て、俺があんなこと言ったからか」
 
自分に対して笑うように、ウソツキさんはぽつりと呟く。
私は無言のままで、コンクリートの灰色を見つめ続けた。

「ネコ?」
 
ペットに呼びかけるような言い方にしては、あまりにも優しく、やわらかい声。
そんな大事そうに呼ばないでほしい。