午後からの予定が急遽変更になった私は、戻ってきた会社の前で1人深呼吸をしていた。
…帰社すること、それは槙くんと顔を合わせるということで。

まさか昨日の今日で顔を合わせることになるとは…

今日は1日社外での仕事の予定だったこともあり、正直まだ心の準備がきちんと出来ていなかった。

いや!でも、そんなこと言ってる場合じゃない!
自分で自信を鼓舞してから再び足を進めようとしたその時、見覚えのある人物が視界に入って。

「ユウさん?」
「…あぁ茜様でしたか。ご無沙汰しております」
相変わらず隙のない所作でお辞儀され、私も慌てて頭を下げた。

「もしかして、雪さんがいらっしゃるんですか?」
「ええ、約束の10分まであと1分を切りましたので。そろそろ迎えに行こうかと思っていたところです」
「1分…」

あまり話は見えなかったけれど、とりあえず「細かいですね」という言葉は飲み込んで曖昧に笑顔を浮かべるにとどめておくことにする。

「なにか?」
「いっいえなんでも!」
「それでは私はとりあえず向かいますので」
「あっはい!私も入ります」

この人なら分刻みのタイムスケジュールとか組みそうだなぁ…なんて考えながら、早足で歩き出したユウさんの背中を追うように私も足を進めていった。