オト「あの場で殺せば、君は悲しむでしょ?」
『もちろん。』
オト「君の泣く顔も見たいけど、他人のせい泣かれるのは嫌だ。僕が泣かせたいから。」
『…か、変わった思考の持ち主だなぁ。』
オト「男はそんなものだよ。彼らもね。」
『え、ないない。』
オト「信じないならいいけど。」
『…どうして、私なんですか?特別可愛いわけでも無ければ、強くも無いから。』
オト「羽咲は可愛いよ。とても、憎らしいほどに、愛おしい。」
『…いや、あの、なんで近づいてくるんですか。』
オト「君はあの時が、初めての出会いだと思ってるけど、違うよ。」
『っ…!』
あの時の、あの夜の時の目だ。
苦しみと恐怖を植え付けられる感覚。
オト「僕と君はずっと前から出会ってたんだ。」
『え…?…いや、それは無い。だって、見覚えない…。』
オト「…君のお父さんとお母さんと、あと碧君…だっけ。」
ドクンッ
『っ…なんで知って…。』
オト「ふふ、僕はなんでも知ってるよ。まあ、知ってると言うより、《見てた》んだけど。」
『っは…!?ありえない。』
オト「有り得るよ、ふふ。君も、気付いてたはずだよ。」
『え…?』
オト「ほら、君の大事な彼が死んだ日を、思い出して?悲しくて、悲しくて、辛かった、あの時を…。」
『っ止めて、近付かないで。』
オト「暗くて、湿ってた倉庫の中で、手と足を縛られて、目隠しもされて…。」
そう言って、オトは私の目を隠し、両手を掴んだ。
『ッ…。』
オト「耳元で、囁く、愛の言葉を…。」
『やめ…ッ』
オト「ねえ、羽咲。ちゃーんと、思い出して?そして、君の絶望する顔を見せて…?」
『いや…、触らないで…、やめてよ…!父さん!母さん!!碧!!!』
オト「君の足元には、たくさんの血で広がってるよ。ほら、見て。」
オトは私から手を離した。
オト「君の両手も、血濡れているね。」
『あ…やだ…。』


