「…なんか言えよ。」
しびれを切らしたのは光だった。
珍しすぎて思わずポカンとする。
光は沈黙に慣れている。むしろ自分からイヤイヤオーラを放っている。
なのに、そんな光が、今、歯がゆい思いをしたんだ。
静けさに、耐えられなくなったんだ。
神みたいに見えていた光が、不意に、自分と同じようなちっぽけな人間に見えた。
不思議な感覚にとらわれて、わたしはまじまじと光を見つめた。
「んだよ。」
ほら。
光は今、緊張しているんだ。
『気まずい』
光にも、そんな人間らしい部分があったんだ。
「ふふっ…」
思わず口から漏れた笑み。
久しぶりに笑ったような気がする。
楽しい。
嬉しい。
面白い。
久しぶりの感覚。
久しぶりに五感が戻ったような気がした。
「気持ち悪いな。」
「ははっ。」
「やめろよ。黙れ。」
「あはは。」
光は黒い髪を掻き揚げてそっぽを向く。
前は怒ってるのかと思ってたけど、今気づいたよ。
恥ずかしがってたんだね。
どんどんと知る新しい光の顔。
どうしてこんなにも興奮しているんだろう。
なんだろう…これ。
「ヘラヘラするな。」
「わたし、いつもヘラヘラしてますよ?」
「今日は本気のヘラヘラだって言ってんだ。」
どうしようもなくおかしい。
不思議と笑いが込み上げてくる。
笑いをこらえて変な顔で光を見上げれば、諦めた、というように光は椅子にどっかりと腰を下ろした。
「笑えよ。めんどくせーな。」
「ぷっ。」
舌を打つ光を見て、大爆笑する。
「あははっはは、ひいー、息できないっ、あははっ。」
おかしな声を出して笑うわたしを見て、光はふっと頬を緩めた。
「お前も、そんな顔できるんだな。」
「はあ、はあ、へ?」
「笑ってるお前が好きだ。」
ーっ…
心臓よ、止まれ。
『好きだ。』
別にわたしが女として好きだと言われたわけじゃない。
なのに、こんなにもドキドキする。



