なんだかまだ眠いな、と思いながら、つぐみが会社の廊下歩いていると、頭の上で声がした。
「社長と同じ匂いがする」
ひっ、と振り返ると、西和田が気配もさせずに、真後ろに立っていた。
周りに人が居ないのをいいことに、つぐみの髪の匂いを嗅いで、そんなことを言い出す。
「えっ、シャンプーは別ですよっ」
とうっかり言ってしまい、マジかっ、と言われた。
「いや、シャンプーの話じゃなくて、身体全体から漂う家の匂いとでも言うかな」
気配か? と自分でもよくわからないように小首を傾げる西和田に、そんなものがわかるなんて、さすがスパイ様だな、と思っていた。
「結局、社長と一緒に住んでるのか」
と問われ、
「はあ。
白河さんの手前」
と言うと、
「……まずいな」
と何故か西和田が言う。



