機嫌悪いな、と思いながら、奏汰は入ってきた途端、明日の会議の手順で変わったところの説明を始める西和田の顔を窺う。

 話し終えたあと、西和田は自分が背広の下に着ているあのセーターに目をとめ、言ってきた。

「それ、頻繁に着てますね」

 ……いけないのか。

「あまり同じものを着用されますと、あそこの社長は金がないのかと言われ。

 いずれ、それが、あそこの会社は金がないになり、あそこの会社は危ないらしいとなって、株価が下がりますよ」

 そんな莫迦な……と書類を手に固まっていると、
「噂話から潰れかけた銀行もあるでしょう?」
と言ってくる。

 そりゃそうなんだが。

 何故、俺が愛妻の作ってくれた、

 いや、半分は俺が作ったんだが――

 セーターを着ているだけで、会社が倒れる? と思いながら、
「……つぐみにもう一枚編めというのか。
 あいつに頼んだら、いつ出来上がるかわからないぞ」
と答える。