「離婚しないのか」
昨日はなんだかすっかり騙されましたー、とつぐみが昨夜のことを思い出し、赤くなりながら、廊下を歩いていると、後ろから西和田の声がした。
は? と振り返る。
そして、誰に言ってるんだろうな? と思い、周囲を見回した。
誰か夫婦の問題で悩んでいる人でも居たのだろうかと思ったのだが、社長室へと続く廊下には自分しか居なかった。
西和田さん、今、なんと? と思いながら、その秘書室のホープの顔を見ると、
「まだ離婚しないのか」
と言ってくる。
まだって……。
まるで、離婚すること前提のような感じなのですが。
つぐみに追いついた西和田は、
「どんなに好き好き言ってても、すぐにクソ亭主とか言い出すもんだぞ」
と言い捨てて、先に社長室に入っていってしまった。
十把一絡(じっぱひとから)げにしないでください、西和田さん…、と思いながら見送った。



