眠らせ森の恋

 今まで風邪ひいた奴らを邪険にして悪かった、と奏汰は突然、反省し始める。

 まあ、このワンマン社長にはいい経験だったようだな、と思った。

 父親のせいで、スタートした時点から敵が多かったから、多少強引になるのは仕方がなかっただろうが。

 立ち止まる暇もないほど働き続けたこの若社長は、自分が風邪をひいたことが余程ショックだったのか、まだ、ぶつぶつと言っている。

「ああ、それにしても、この俺が風邪なんぞにかかるとは。

 きっと気分の問題だ。

 お前がいつまでも俺の物にならないから。

 ……ああ、松本部長も乗っていましたね」

 人事の部長が今、手が空いていたらしく、運転手について来ていた。

「いえ、あのー。
 私が一緒に家から出て来た時点で、既にかなりびっくりされているので、もうどうでもいいです」

 そうつぐみは言ってしまう。