眠らせ森の恋

 



「なんだか真っ直ぐに歩けてない気がするが、気のせいだろうか」

 そう呟く奏汰につぐみは、
「いえ、本当に歩けてません」
と言う。

 迎えに来た車に乗るのにも手を貸す始末だ。

「一緒に乗っていいですか?」
と言うと、奏汰は、

「バレるぞ。いいのか」
と言ってくる。

「いいですよ。
 西和田さんに言われて、お迎えに行ったと言いますから」

 そう答えた。

 今の奏汰を一人にはしておきたくなかった。

 奏汰はまだ薬が効いているのか、ぼんやり外を見て言う。

「風邪とはこんなに辛いものだったのか」

 死ぬかと思った、と言っている。

 滅多にひかない人間がひくと、オーバーでうるさいな、とつぐみは思っていた。

 さっきまで、辞世の句でも読みそうな勢いだったからだ。